どういう手法でロボアドバイザーとかが動いているのかが何とはなく気になったので少し調べてみました。Wealthfrontという米国で人気のあるロボアドが手法を公開してくれてるので自分の理解もかねて読んでまとめてみます。
どういう流れで投資するのか
- 資産クラスの決定
- 米国株式/新興国債券/不動産など、どの資産に投資するかを決定
- 投資対象を決定
- それぞれの資産タイプに対してどのETFに投資するのかを決定
- 期待リターンの計算
- 各資産クラスが将来的にどれだけのリターンをもたらすと予測されるかを計算
- 資産クラス毎のボラティリティや相関を計算する
- 資産クラス毎で比較してどちらのリスクが高いか、資産クラス間で相関関係にあるかどうかを分析
- ポートフォリオの構築
- 3, 4の結果からリスク許容度毎のポートフォリオを計算
- ユーザーのリスク許容度から最適ポートフォリオを選択
- ユーザーのリスク許容度をアンケートなどから分析し、5の結果からポートフォリオを決定
- 定期的なポートフォリオのリバランス
- 定期的に市場の環境が変わったタイミングで資産配分を見直し
1. 資産クラスの決定
以下のように、市場にある金融資産をどこで分割するかを決定します。分割した単位でどの商品を買うか、どれくらい買うかを決定するためです。
例えば下のような分類方法が挙げられますが、ここからさらに新興国、先進国、米国などで細分化して考えたり、不動産・金などを含めたりすることもできます。
- 株式:国内外の株式市場をカバーし、多様な企業に分散投資します。
- 債券:政府債や企業債など、安定した収益を提供する債券市場を含みます。
- インフレ資産:インフレに対応するための資産、例えばインフレ連動債を含みます。
2. 投資対象を決定
1で決定した各資産クラスについて、購入するETFを決定していきます。ETFを選択する理由は、少ないコストで分散投資の効果が得られるためです。
ETFは以下のような要素を加味して選びます。つまりコスト効率と市場パフォーマンスが最大化できそうなものを探します。
- Cost:手数料が低いものを優先します。
- Tracking error:インデックスに対する追跡誤差が小さいものを選びます。
- Liquidity:取引量が多く、売買しやすいものを選びます。
- Securities lending:証券貸付収入が得られるものを選定します。
3. 期待リターンの計算
このフェーズの処理の流れは↓です。
- 税引き前期待リターンの計算
- 税引き後期待リターンの計算(Tax Loss Harvesting)
3-1. 税引き前期待リターンの計算
ブラック・リッターマン法を使用して、資本資産価格モデル(CAPM)から計算された期待リターンと、Wealthfront資本市場モデルから得られた長期期待を組み合わせて期待リターンを計算します
具体的には次の2つのステップで計算します。
- reverse optimization:CAPMで各資産クラスの期待リターンを計算します。
- Bayesian approach:1で得た期待リターンをマルチファクターのWealthfront資本市場モデル (WFCMM) から得られた期待リターンの予測とブレンドします。
こうして税が引かれる前の期待リターンを求めることができます。
3-2. 税引き後期待リターンの計算
アメリカでは配当、利子、譲渡益で税率が異なる場合があるため、税引き後のリターンを最大化できるように資産配分を調整します。
日本の場合は配当とキャピタルゲインで税率が同じだった気がするので読み飛ばし(間違ってたら恥ずかしい...)
4. Variance-Covariance Matrixを計算(資産クラスのボラティリティや相関を計算する)
ファクター分析を用いて各資産クラス固有のリターンを推定し、固有リターンから標準偏差や相関行列を算出します。結果をみると以下のような内容を知ることができます。
標準偏差(リスク)の推定結果:
- 株式は一般的に債券よりリスクが高い。
- 外国株式は米国株式よりリスクが高い。
- 同一資産クラス内でもリスクには大きなばらつきがある(例:米国債 vs. 米国社債 vs. 新興市場債)。
- 特定の資産(不動産や商品)に集中した投資は分散が少なく、ボラティリティが高い。
相関関係の推定結果:
- 米国株式と米国債券の相関はほぼゼロであり、債券は株式投資の良い分散手段となっている。
- 異なる国の株式間の相関は最近増加しており、経済と資本市場のグローバル統合の進展を反映している。
- 債券の種類によって、株式との相関が異なる:米国政府債はゼロ、米国社債はやや正の相関、新興市場債は非常に高い相関を持つ。これは、これらの債券のクレジットリスクの増加を反映している。
5. ポートフォリオの構築
3で得た期待リターン、4で得たリスクと相関関係から最適なポートフォリオを決定します。
ここで偏りを防ぐために最小配分率、最大配分率を適用します。(具体的な値はソースのTable 6に記載されています)ここの配分率は経験則っぽいです。
6. ユーザーのリスク許容度から最適ポートフォリオを選択
従来のファイナンシャルアドバイザーが行う25問の質問に代わり、行動経済学の研究を活用して数問の質問だけでリスク許容度を特定します。
評価内容は以下です。
- 主観的リスク評価:
- 投資家がどれだけリスクを取る意思があるかと、その回答の一貫性を評価します。
- 一貫性が低いほど、投資家のリスク許容度は低く評価されます。
- 客観的リスク評価:
- 引退後の支出ニーズに対して十分なお金が貯まるかを推定します。
- 余剰収入が多いほど、より多くのリスクを取ることができます。
2つの評価を組み合わせて最終的な評価としますが、このときよりリスク回避的な要素に重きを置きます。行動経済学の研究により、投資家が真のリスク許容度を過大評価する傾向があるためです。
クライアントの財務状況が変更されたかどうかを定期的に確認し、適宜リバランスを行います。
7. 定期的なポートフォリオのリバランス
市場の動きによりポートフォリオの構成が変動し、ポートフォリオの資産配分が最適でなくなる場合があります(高リスク資産の割合が増えるなど)。意図したリスクレベルと資産配分を維持するためには、定期的に資産配分の変更をします。
最後に
分からなかったところが多いので、統計周り勉強してからまたリベンジできればと思います...
あと計算の具体的な部分は結構飛ばされてる気がしますが、商業なのでしょうがないですね...。
Appendix
Wealthfront資本市場モデル(WFCMM)
CAPMが異なる種類の株式(例えば、小型株対大型株、バリュー株対グロース株)および資産クラス全体の期待リターンを不完全にしか説明していないことが知られており、これを解決するために生まれたマルチファクターモデルがWFCMM。よくわかりませんがファクターモデルなので、おそらくBarraモデルと同様の計算式かと思われます。
金利やバリュエーション比率の変化に基づいてリスクプレミアが変動するマルチファクターモデルで、長期的な期待リターンを示してくれるそうです。(金利とバリュエーション比率とやらをファクターにしている??
Tax Loss Harvesting
アメリカでは配当、利子、譲渡益でそれぞれ税率が異なるため、税引き後のリターンを最大化できるように資産配分を調整します。
アメリカの場合、金融資産の課税は以下のように複雑になっています。
- 配当と利子は通常の所得税率で課税され、分配時に課税される。
- 「適格配当」は長期キャピタルゲイン税率で課税される。
- 市債利子は連邦税、州税(居住州発行の場合)で非課税。